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蒲団/田山花袋
「蒲団」田山花袋より一部

 時雄は雪の深い十五里の山道と雪に埋れた山中の田舎町とを思い遣(や)った。
別れた後そのままにして置いた二階に上った。
懐かしさ、恋しさの余り、微(かす)かに残ったその人の面影(おもかげ)を偲(しの)ぼうと思ったのである。
武蔵野(むさしの)の寒い風の盛(さかん)に吹く日で、裏の古樹には潮の鳴るような音が凄(すさま)じく聞えた。
別れた日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、罎(びん)、紅皿(べにざら)、依然として元のままで、恋しい人はいつもの様に学校に行っているのではないかと思われる。
時雄は机の抽斗(ひきだし)を明けてみた。
古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。
時雄はそれを取って匂(にお)いを嗅(か)いだ。

暫(しばら)くして立上って襖を明けてみた。
大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡(から)げてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団(ふとん)──萌黄唐草(もえぎからくさ)の敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。
時雄はそれを引出した。
女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。
夜着の襟(えり)の天鵞絨(びろうど)の際立(きわだ)って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅(か)いだ。

 性慾と悲哀と絶望とが忽(たちま)ち時雄の胸を襲った。

時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
 薄暗い一室、戸外には風が吹暴(ふきあ)れていた。


適当物語説明:
作家時雄(田山花袋)は自分を慕って上京してきた女学生芳子(花袋の弟子岡田美知代)に恋をするが、芳子は田中という若者と付き合ってしまう(そりゃ時雄のような妻もちのオッサンと恋愛はしたくないだろう(;´Д`))
時雄は一見して、芳子と田中の保護者のような立場に甘んじることとなるが(でも、田中にはネチネチと嫌がらせをしている)、二人が性的関係を持っていることを知り、芳子の父を呼び寄せ、芳子を田舎へと帰してしまう。
芳子がいなくなった時雄はブロークンハートになり、芳子が下宿していた我が家の二階で芳子の蒲団に顔を埋めて泣くのであった(※上記引用部分がラストシーンになります)

「蒲団」適当説明:
「蒲団」は田山花袋の実体験小説と言われているが、実際には物語の大半は虚構に覆われている(明治の女学生が自分の蒲団を持ち帰らないわけがなく、また芳子のモデルである岡田美知代が「田山先生は私のことをそのような目で見ていない」と否定したからである)
しかし、明治当時にしてみれば、自分の性や醜い部分等を赤裸々に描いた作品は衝撃的で、この作品によって実体験小説が一世を風靡することとなった。


惨めったらしい男が読みたい人に是非おすすめ。
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